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学生時代にeスポーツを経験、開発業務との共通点も ――フォーラム参加で視野と価値観を広げたい

渡辺 育之介氏(写真1)は、デンソーで車載セキュリティソフトウェアの開発に携わる技術者。入社3年目の若手で、AUTOSAR準拠ミドルウェアの設計・実装などを担当する。学生時代にはeスポーツ競技と出会い、結果を残した。その時の成功体験が、今の仕事に対する粘り強さや自信につながっているという。その一方で同氏は、技術面における自身の視野の狭さや知識不足を感じており、Design Solution Forumへの参加によって、こうした問題が少しでも解消されることを期待している。


写真1 車載セキュリティソフトウェアの開発に携わっている株式会社デンソーの渡辺 育之介氏(撮影:デンソー)

入社3年目、セキュリティソフトを開発中

――担当されている職務は?

渡辺:統合型ECU(車載コンピュータ)の先行技術調査の一環として、自動運転車に搭載する通信制御装置向けのセキュリティソフトウェアの開発に従事しています。

――入社してすぐに、その仕事をまかされたのでしょうか?

渡辺:いいえ。2019年1月から半年ほど、AUTOSARプラットフォームのBSW(basic software)の開発に従事しました。同年7月にNTTデータMSE(デンソーが出資するNTTデータグループのシステムインテグレータ企業)への出向となり、カーナビ用ソフトウェアの量産開発などを経験しました。2020年7月にデンソーへ帰任し、今の担当になりました。

――学生時代は何を勉強していましたか?

渡辺:私がお世話になった大学の研究室はロボット技術が専門だったので、MATLABでシミュレーションしていました。C言語の利用経験もあります。

――勉強したことが、そのまま仕事の役にたっているわけですね。

渡辺:そうですね。ギャップはあまりなかったです。もちろん、品質保証の仕方や、保守性を考慮したソフトウェア実装など、大学で教わらないこともたくさんありましたが…。

eスポーツ競技で実績、成功体験が育んだ不屈の心

――学生時代は、学業以外にどのような活動を行っていましたか?

渡辺:eスポーツ競技をやっていました。eスポーツにもいろいろあるのですが、主にLeague of Legends、通称LoL(1)というマルチプレイヤのオンライン対戦ゲームです。2016年冬の日本大学リーグの大会で私が参加していたサークルが優勝し、2017年には個人としてオンライン上のランキングで日本4位になりました(写真2)。

図1 League of LegendsのWebサイト(https://jp.leagueoflegends.com)

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写真2 eスポーツのPC画面に向かう渡辺氏(撮影:デンソー)

第1回全国高校eスポーツ選手権(2018~2019年開催)に協賛したデンソーが、広報用に撮影した写真。当時、渡辺氏と、League of Legendsのプレイ動画を生配信していた俳優のケイン・コスギ氏による対談も行われた。

――ランキングの上位に入るには、相当な努力が必要なのでは?

渡辺:一般的なゲームのイメージで、時間をかけた人がランキングの上位に到達できる、という印象を持つ人が多いかと思います。しかし、eスポーツの世界はそうではありません。自分が勝ち上がると、それに応じて相手も強くなります。戦略を考え、工夫しないと、先へは進めません。その意味では、囲碁や将棋に近いかもしれません。

――eスポーツの経験が仕事に役立ったことは?

渡辺:いろいろあると思います。自分の中で、学生時代のeスポーツの活動は一つの成功体験です。私がLoLを始めた当時、まだこのゲームは日本にほとんど入ってきておらず、北米のサーバに直接接続してプレイする必要がありました。まったく分からないものを探求し、試行錯誤して、最終的に結果を残すレベルに到達できた、というのは、自分のやり方が間違っていなかったことの証拠であり、一つの自信につながっています。

――未知のものを一から調べたり、戦略を立てて課題を攻略したり、といったところは開発の仕事にも通じるように思います。

渡辺:開発エンジニアとしてはまだまだ未熟ですが、途中で折れないというか、続けてやっていくことで、どこかで必ず成果が出せる、という前向きな気持ちが湧いてきます。

仕事への向き合い方は、先輩エンジニアから学んだ

――入社当時と比べて、仕事と向き合う時の気持ちに変化はありましたか?

渡辺:誰でもそうだと思いますが、最初は分からなかったことが、いろいろと分かるようになり、出来ることが増えてきました。これまで受け身の姿勢だったものが、今はある程度、能動的に動けるようになってきました。

――例えば、どのように変わりましたか?

渡辺:今、ソフトウェアモジュールを作っているのですが、ただ指示されたとおりに作るだけではだめだ、と思うようになりました。どうしたら自分なりの付加価値が付けられるかを考えるようになり、そこにやりがいを感じるようになってきました。

――意識が変わったきっかけは?

渡辺:まわりの影響があると思います。先輩のエンジニアがそのような意識を持っていて、よくそういった発言をされています。「この人、すごいなぁ」と思う人は、仕事の中で、常に自分ならではのプラスアルファを生み出しています。できる人の共通項を探すと、そんな感じがします。

――Design Solution Forumに参加されたことは?

渡辺:これまで参加したことがなかったのですが、今回はぜひ参加したいです。私の仕事はソフトウェアが中心で、自分の視野はかなり狭いんじゃないか、と思っています。こういうイベントに行けば、組込み系のさまざまな領域のエンジニアと出会えます。また最近は、企業が変われば開発の文化や考え方が違う、ということを実感しています。フォーラムに参加して、自分の価値観が広がることを期待しています。

――今後、聴講してみたいと思うセッションのアイデアはありますか?

渡辺:実現可能かどうか分かりませんが、参加者が実際にコードを書いて、複数のベテランの方がそれをレビューするような、ライブ形式のセッションを見てみたいです。eスポーツの世界には、プロの選手が自分のプレイを生配信し、それを見て競技の参加者が最先端にいる人たちやそのトレンドを追いかける文化があります。同じように、一流の人たちの“なま”の開発を肌で感じられるようなセッションがあればいいな、と思います。

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<プロフィール>

渡辺 育之介氏(株式会社デンソー)

2018年、デンソー入社。東京理科大学卒。大学時代はLeague of Legends(LoL)サークルで活動。2016年、JCL(日本大学リーグ)優勝。プロチームから選手としてスカウトを受けた経験あり。デンソーでは2019年にAUTOSARのBSW(basic software)の開発を経験。2019年7月からNTTデータMSEへ出向し、カーナビ用ソフトウェアの量産開発などに従事。1年間の出向の後、デンソーへ帰任し、自動運転車に搭載される通信制御装置のセキュリティ技術開発へ参画。