登坂 亮氏(写真1)は、リコーで無人搬送車(AGV)の開発を担当する技術者。長らくASICのESL(electronic system level)設計やFPGA開発を担当していたが、入社から9年目の2019年に、現在の開発チームへ移った。工場や倉庫で使用される無人搬送車は、顧客ごとに運ぶものの大きさや重さ、運び方などが異なる。そのため、顧客の要望に合わせたシステムのカスタマイズが欠かせない。顧客の満足を引き出すためには、開発技術を磨くだけでなく、製造や物流の現場に対する知見が求められるという。
写真1 無人搬送車の開発に携わっている株式会社リコーの登坂 亮氏
ASIC設計から無人搬送車(AGV)開発へ
――担当されている職務は?
登坂:工場や倉庫などで使われる無人搬送車(AGV:automatic guided vehicle)の開発、および開発業務の管理を担当しています。
――リコーの無人搬送車は、どのようなシステムですか?
登坂:弊社が提供しているのは、工場などの床に黒いビニールテープを引いて、それに沿って自動走行するタイプの無人搬送車です。ユーザフレンドリな製品で、顧客自身の手で走路変更や運航指示の設定をしやすい、という特徴があります。
図1 リコーの無人搬送車「M2」の概要
出展:https://industry.ricoh.com/agv/
光学式の画像認識誘導を採用。市販の黒ビニールテープを使って走路を設定する。低コストで手軽に走路を構築でき、工場の工程変更などにも対応しやすい。無線LANを使って複数台の運行管理を行う機能を備えている。
動画1 リコーの無人搬送車「M2」のAGV-M2-カゴ車自動連結概要
動画2 リコーの無人搬送車「M2」潜り込み_台車自動脱着
――どのようなメンバーで開発しているのでしょう?
登坂:一つの部署に、エレキ、メカ、ソフトウェアのエンジニアが集まっています。
――もともと無人搬送車の開発を担当されていたのでしょうか?
登坂:いいえ。2010年にリコーに入社し、最初はASICの開発部門に配属されました。そこで、ネットワーク関連のASICを設計していました。Design Solution Forumにも、初期のころから、毎年参加しています。
――2017年には、講演者として登壇されています。
登坂:工場や走行体の自動化で使われるコンピュータビジョン向けライブラリのOpenCVを、Silexica社のツールで解析し、FPGAに実装した事例を発表しました。当時は、ESL(electronic system level)設計や、それに関連するFPGA開発を担当していました。
――それが、なぜ無人搬送車の開発へ?
登坂:自社の工場の改善活動の一環として、2017年ころから新しい無人搬送車の試作・開発、および社内実践にかかわるようになりました。この活動とは別に、弊社にはもともと外販用の無人搬送車(量産機)を開発する部署があったのですが、縁があって、2019年にこの部署へ合流することになり、現在に至っています。
ソリューション開発は、
実際の現場に入らないと分からない
――製品開発で苦労している点は?
登坂:無人搬送車は、顧客ごとに運ぶものの大きさや重さ、運び方、運ぶルートなどが異なります。客先に出向いてヒヤリングを行い、顧客への提案を考え、それに基づいてベースとなる無人搬送車をカスタマイズします。顧客の要望をどう実現するかが、つねに苦労する部分であり、やりがいのある部分でもあります。
――カスタマイズというのは、どの程度の改変ですか?
登坂:例えば、顧客が使っている台車があり、無人搬送車がその台車の下に潜り込んで、人を介さずA地点からB地点へけん引し、B地点に到着したら切り離したい、といった要望があります。この要望に応えるため、運行管理の方法を考えたり、顧客の台車に合ったけん引機構を考えたりします。
――ASICの設計と無人搬送車の開発では、仕事の性格がかなり違うのでは?
登坂:違います。ASICを設計していたころは、顧客から離れたところで仕事をしていました。自分の作ったものが、顧客にどのような喜びを与えるのか、といったことをあまり意識していませんでした。今は、顧客に近いところにいます。自分たちの作ったものを現場に導入し、顧客といっしょに課題を解決していく、といったこともしています。
――仕事のスタイルがソリューション開発中心へシフトした、ということですね。
登坂:最初はとまどいました。客先に行っても、コミュニケーションの取り方が分かりません。同行していた営業スタッフを見習い、話術を憶え、経験を積んで…、といった感じです。
――ソリューション開発ならではの問題はありますか?
登坂:例えば工場の生産性を考慮すると、面積当たりの効率を考える必要があります。そうなると、「車体をコンパクトに」という要求が出てくる。一方、車体をコンパクトにしようとすると、システム設計が難しくなる。つまり、工場側の問題と無人搬送車の設計の両方の理解が必要になるのです。
――生産性以外の制約は?
登坂:どのような人が工場で働いているのか、どのくらいの技術的な知識を持った人が無人搬送車を使っているのか。仕様を検討する際には、そういった情報がけっこう重要です。実際に現場に入ってみないと分からないことがあるんだな、と実感しました。
受け身で仕事にのぞむのではなく、戦略的にチャレンジしてほしい
――長年、本フォーラムに参加されているということですが、ほかの技術系イベントと比べて、違いは感じますか?
登坂:企業のプライベートセミナなどと比べると、技術者同士のつながりが強いと感じています。実際に開発に携わっている、さまざまな会社の方が集まって企画・運営されていることもあり、より技術者目線の講演やセッションが多いように思います。
――2017年に講演されたとき、まわりの反応はありましたか?
登坂:私が発表した技術やツールを使ってみたい、と考えているほかの会社の方から声をかけていただいたり、懇親会で質問を受けたりしました。またSilexica社は、私が発表した内容を反映して、ツールのアップデートを続けてくれている、と聞いています。
――フォーラムに参加される若手のエンジニアにメッセージを。
登坂:言われたことをそのままやるのではなく、きちんと自分で考えて、自分の意見を持って、戦略的にものごとにチャレンジしてほしいと思います。受け身になるのではなく、自分から行動しましょう。それが結果的に、開発チームのため、会社のためになりますし、自分自身のためにもなる、と考えています。
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<プロフィール>
登坂 亮氏(株式会社リコー)
2010年、リコー入社。ASIC開発部門に配属。ネットワーク技術関連を中心に、ESLのシステム設計やFPGA開発を経て、現在は無人搬送車(AGV)開発部門で開発、および開発のマネージメント(管理)を担当。Design Solution Forum 2017では、Silexica社のツールとFPGAの融合技術についての技術講演で登壇。