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ToF測距センサを量産して事業拡大へ ――車両・ロボットの衝突回避、非接触UI、VR/ARの応用に期待

ブルックマンテクノロジは、画像センサを開発する半導体ベンチャ。最近は、ToF(time of flight)方式の距離画像センサの製品化に力を入れている。ToFとは、投射したレーザ光が対象物に反射してセンサへ戻ってくるまでの時間を計測し、距離情報を取得する技術。ToFセンサの開発では、センサ素子の設計技術に加えて、レーザ素子との同期や補正技術など、システム的な知見が必要になる。ここでは同社の成り立ちや製品開発の経緯などについて、同社の青山 聡氏(写真1)に話を聞いた。


写真1 株式会社ブルックマンテクノロジ 代表取締役社長の青山 聡氏

浜松を拠点とする大学発ベンチャがToFセンサを製品化

――創業したのはいつですか?

青山:2006年2月です。当時、国の政策で大学発ベンチャを増やそう、という動きがありました。弊社は静岡大学から出たベンチャ企業で、代表取締役会長の川人祥二は、今も現役の静岡大学の教授です。

――起業のきっかけは?

青山:2002~2006年度に、浜松地域で文科省による「知的クラスター創成事業」が始まり、大きな予算の下、大学と企業が画像センサを含む光技術に関する共同研究を行いました。このプロジェクトで、中心的な役割を果たしたのが川人です。良い研究成果が出たので、その成果を社会に還元するため、事業化することになり、それを担う会社として弊社が設立されました。

――最近は、ToF方式の距離画像センサを発売しています。

青山:実は、ToFセンサ開発の歴史は古いです。川人は創業前の2002年から、先述の知的クラスター創成事業の中で研究を行っていました。コストメリットを生かせるCMOS技術を使ってToFセンサを作ろうと取り組み始めましたが、当時はまだ技術的にも完成度が十分ではなく、商業ベースに乗せるのは難しい状況でした。

――いつから事業化へ?

青山:2015~2017年ころです。ある大手企業から、ToF技術を使って小さな測距センサを作れないか、という話が来ました。スマートグラス向けのものでした。ちょうど、Google Glassの発売が話題になっていたころです。

――Google Glassは、成功しませんでした。

青山:弊社の顧客の案件も頓挫しました。しかし、委託を受けて開発する中で、私たちの持つ技術を使えば、スマートグラス以外の用途で使えるのではないかと感じ、自分たちで製品として仕上げていこう、と決断しました。それが、今の製品につながっています(図1)。


(a) カメラタイプ「BEC80T04B RED」


(b) モジュールタイプ「BEM80T04B」

図1 QVGA(320×240画素)のCMOS ToFセンサ「BT008D」を搭載した開発キット

――今の製品は、どんな応用を想定していますか?

青山:ロボットや自走する車両(車いすやゴルフカートなど)が衝突を回避するための「検知」、また非接触UIやゼスチャ認識などの「認知」の用途に向くと考えています(動画1動画2)。さらに、応答性能の速さを生かして、VR/ARシステムやゲームなど、人の動きのトラッキングにも使われると期待しています。

https://www.youtube.com/watch?v=TpTkK9wUY-Y

動画1 高速な非接触UIのデモンストレーション(YouTube)

https://www.youtube.com/watch?v=66ecybbHu4Q

動画2 指ゼスチャ認識のデモンストレーション(YouTube)

ToF方式はアクティブなシステム、新たなノウハウが必要に

――開発で苦労した点は?

青山:ToFセンサによる距離センシングは、センサ素子単独では成立しません。レーザ素子とセンサ素子が同期することで機能するアクティブなシステムです。そのため、センサはもちろん、それ以外の素子や部品のばらつき・特性などを考慮してキャリブレーション(補正)することで、必要とされる性能・精度に追い込んでいく必要があります。弊社は、これまでセンサの開発しかやってこなかった会社ですので、このようなシステム的な知見を持った人材が、社内にほとんどいませんでした。

――それで、どうしたのですか?

青山:私たちは“バックエンド(後工程)”と呼んでいますが、センサ素子以外の部品をできる限り自分たちで評価・選定した一方で、モジュール化やカメラ開発については協力会社に助けてもらいました。弊社の担当者も熱心に勉強してくれて、苦労した分、得られた知見もたくさんあったと思います。

――苦労したかいはありましたか?

青山:はい。このときの経験が、新しいセンサ開発の仕様決めに役立っています。どこまでをデバイス(センサ素子)側で追い込まないといけなくて、どこからはシステム(バックエンド)側でフォローができるのか、ということが少しずつわかるようになりました。

垣根を払ったマルチなスキルを持つ技術者が生き残る

――現在、社員は何人ですか?

青山:36人です。うち1/3強がセンサ素子やアナログ回路の設計者で、それ以外にも製造や品質管理、テスト、FAEなどの技術者がいます。センサ開発以外の技術者が増えたのはここ1〜2年のことで、ToFセンサの事業に力を入れるために、勉強会をしたり組織を変えたりしてきました。3Dセンシング市場は、ToFセンサの使い方も含めて次の2〜3年で方向性が決まる、と予測しています。成長するこの市場において、弊社の製品が広く認知されるよう事業を展開したいと考えています。

――浜松を本拠にしていますが、地元出身の方が多いのでしょうか?

青山:当社には、私を含めて静岡大学の卒業生が12人います。また、社内にはメーカ経験のある方で、単身赴任の方も何人かいます。50代以上のシニアの方も多いです。浜松はほどほどにいなかで、気候も穏やかということもあって、すごしやすい土地です。「東京・大阪と比べると、リフレッシュできる」と言っていただくこともあり、そのような方がまた、新しい人を呼んでくれたりします。

――フォーラムに来場される方へメッセージを。

青山:私は、半導体に関わる人間として多くの方々とビジネスの話をする機会があるのですが、今や中国、台湾、韓国を無視して半導体ビジネスは成り立ちません。とは言え、そうしたビジネスを牽引している方々から話を聞くと、日本の半導体エンジニアの技術レベルはやはり高いと言ってくれますし、期待も信頼もされています。そこは自信を持っていいかな、と。

――エンジニアには何が求められていますか?

青山:これまでのようにハードウェアだけをやっていては、仕事の幅も視野も狭くなってしまいます。私たち自身がソフトウェアや、もう一段上のシステムを学び、その情報を積極的に取り込んでいかないといけないと思いますし、システムを開発する方にもハードのことをもっと知ってもらわないといけないと思っています。ハード、ソフト、システムという垣根を取り払って、マルチなスキルを身につけることで、エンジニアとしてのバランス力を養っていく必要があると思っています。

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<プロフィール>

青山 聡氏(株式会社ブルックマンテクノロジ 代表取締役社長)

1996年、大阪大学基礎工学部 修士課程修了。同年、株式会社日立製作所 半導体事業部入社。マイコン・メモリなど、各種LSI開発業務に従事。2000年より英Oxford大学にてイメージセンサの研究に携わった後、株式会社ルネサステクノロジ異動などを経て、2004年に同社を退社。同年、静岡大学工学部 博士後期課程に入学。2007年博士(工学)取得。在学中の2006年7月に株式会社ブルックマンテクノロジ入社。2010年より同社代表取締役。