画像処理で起業、深層学習で車・FA・放送・医療へ ――モジュール化と柔軟なソフト構成でSoCのヘテロ化に対応

モルフォは、画像処理とディープラーニングの両方の知見を持つ研究開発志向のベンチャ企業。SoftNeuroという高速なディープラーニング推論ソフトウェアなどを提供している。カメラの画質改善ではQualcomm社、自動運転ではデンソー、医療の臨床検査ではエスアールエルというように、応用ごとに各分野の有力企業と手を結び、実用化を見据えたソフトウェア開発に取り組んでいる。ここでは同社の技術の概要、および開発エンジニアに期待することなどについて、同社の平賀 督基氏(写真1)に話を聞いた。


写真
1 株式会社モルフォ 代表取締役社長の平賀 督基氏

AI技術開発のゴールはPoCではなく実用化

――モルフォは、どのような企業ですか?

平賀:設立は2004年5月です。当初は、国内の携帯電話向けにソフトウェアによる手ぶれ補正の技術を開発していました。今は主に海外のスマホメーカへ、カメラの画質向上やディープラーニングを活用した画像認識のソフトウェアを提供しています。スマホメーカを中心に、当社売上の半分以上は海外顧客案件になっており、グローバルでの事業展開を加速しています。

――スマホ以外の市場への展開は?

平賀:自動車業界では、デンソーといっしょに自動運転やADASに向けた画像認識技術を開発しています。またFA向け、例えば半導体部品の良品・不良品の検査をディープラーニングベースで行う技術で、外観検査装置メーカと協業しています。放送局では、映像制作に弊社の画質改善ソフトウェアが使われています。医療分野では、臨床検査受託事業の最大手であるエスアールエルと臨床検査の自動化に取り組んでいます。

――モルフォの強みは何ですか?

平賀:ソフトウェアやアルゴリズムの開発に特化した会社で、画像・映像とディープラーニングの両方の知見を持っている会社は、それほど多くないと見ています。

――AIの案件というと、顧客の要望に従ってPoC(proof of concept)を行って終わり、というケースも少なくありません。

平賀:弊社の場合、PoCにとどまらず、きちんと実用化まで持っていきます(写真。スマホの分野では、弊社の技術を使った製品がたくさん世に出ていますし、外観検査機器向けの製品もまもなく世に出ます。


写真
2 混雑状況解析技術「Morpho Crowd Counting™

異種混載マルチコアの性能を引き出すソフト開発へ

――ディープラーニングは、画像処理と組み合わせて使うことが多いと思います。

平賀:二つの技術は、相性のいいところがあります。画像処理はピクセル(画素)を処理しないといけないのですが、その処理は大量の並列計算の集まりです。一方、ディープラーニングも並列計算の集まりで、学習にはGPUをフル活用します。処理的に近しい部分があり、そういうところで弊社のノウハウが生きています。

――最近のSoCはヘテロジニアス(異種混載)化が進み、どのコアをどう優先的に使えばいいのか、見えにくくなっています。

平賀:そう思います。ヘテロなプロセッサの使い方は、顧客ごとに要望が異なります。「CPUの使用量はこれくらいに抑えて、GPUは自由に使ってもいい」とか、「AI処理用のDSPはたくさん使ってもいいけど、GPUは別の処理に使いたいから使わないで」とか。

――対応策はありますか?

平賀:そのあたりの問題に柔軟に対応できるようなソフトウェアのモジュール化を行っています。あと、処理ソフトウェアの上にラッパの層をかぶせて、もともとCPUで実行していた処理を別のエンジンでオフロードしやすい構成にしています。アルゴリズム設計やPoCだけで終わるのであれば、そこまで考える必要はありません。しかし、ハードウェアまで考慮して作り込んでいかないと、本当に良いものはできない、実用化まで持っていけない、と考えています。

――ディープラーニング技術の今後の展望は?

平賀:ディープラーニングの得意なところは、画像に限らず認識系で、その精度を上げていくことは永遠のテーマです。これとは別に、画質や映像品質を上げていくところにも、ディープラーニングの適用が進むと見ています。例えば弊社はQualcomm社と協力して、自動画像領域分割とレタッチを融合した技術を開発しています。

――どのような手法ですか?

平賀:画像をピクセル単位で、人物の髪の毛の部分、顔の部分、空の部分、動植物の部分などに領域分割(セグメンテーション)し、それぞれの領域ごとに適切なフィルタをかけます(動画1)。例えば人の肌だと判断された領域は、なるべく肌がすべすべに見えるようにノイズ除去を強めにかけます。髪の毛の領域は、ノイズ除去を強めにかけるとノッペリして不自然になるので、髪の毛の方向に沿ったノイズ除去を行います。

動画1 自動画像領域分割&レタッチ技術「Morpho Semantic Filtering」(YouTube)

-製品紹介ページ:

継続的に勉強し、負けず嫌いな人が優秀なエンジニア

――技術者の人数と社内の雰囲気を教えてください。

平賀:100名規模の会社で、2/3がエンジニアです。雰囲気は、「大学の研究室みたい」とよく言われます。ただ大学と違って、「それは顧客に受けるの?」、「収益化できるの?」といった議論がエンジニアの間でもよく行われます。

――どのような人材を集めたいですか?

平賀:画像処理もディープラーニングも進歩が早いので、常に勉強を続けられる人がほしいです。あと、勉強してもそこにプラスアルファがないと意味がないので、自分なりの考えに基づいてプラスアルファを付け加えられる人。そして、競合する会社とコンペになったとき、「絶対に負けるものか」という気持ちでやってくれる負けず嫌いの人が、とてもよいエンジニアだと思います。

――2021年2月開催予定のフォーラムに来場される方へメッセージを。

平賀:大手企業の中には、垂直統合型でなんでもかんでも自分たちでやりたがる人もいるかもしれません。しかし今は、オープンイノベーションの時代です。さまざまなタイプの企業が協力する必要があるのですが、それがうまくいっていなくて、日本のメーカの国際的な競争力が低下しているように感じます。開発エンジニアの方にもそういう意識を持っていただき、いっしょに協力していければ、と考えています。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

<プロフィール>

平賀 督基氏(株式会社モルフォ 代表取締役社長)

2002年に東京大学大学院(理学博士)修了。在学時より画像処理や映像制作用の技術開発に携わる。研究で培った専門知識や経験を実世界に役立てたいという思いのもと、2004年5月に株式会社モルフォを設立。代表取締役社長を務めながら、2011年にCTO室室長、2017年に技術部門管掌に就任し、最先端の画像処理およびAI技術の研究開発に取り組んでいる。