深層学習を駆使して人間の内面を可視化 ――消費者の“隠れた心理”を明らかに、感情やストレスの分析にも挑戦

AIQは、ディープラーニングを応用したツールやサービスを提供するベンチャ企業。画像認識や自然言語処理などの技術を駆使して、SNS(social networking service)のコンテンツを分析するツールを開発。ソーシャルメディアを活用する、企業のSNSマーケティングの業務を支援する。また、製造業やサービス業などに向けた技術開発支援も行っている。ここでは、製品の概要、開発の背景、およびAI技術の方向性などについて、同社の高松 睦氏、深水 拓郎氏、西川 龍二氏(写真1)に話を聞いた。


写真
1 AIQ株式会社 代表取締役の高松 睦氏(左)、同社 マーケティング責任者の西川 龍二氏(中央)、同社 エンジニア部 部長の深水 拓郎氏(右)

SNS分析とAI開発支援の二本柱

――どのような製品を提供していますか?

西川:マーケティング分野と技術開発分野の二つに分かれます。マーケティング分野では、特許技術のプロファイリングAIを用いて、複数のサービスを展開しています。主力はInstagramのアカウント運用をサポートする「AISIGHT(アイサイト)」です。自社・競合アカウントの状態やフォロワの属性、流入を増やすことができるハッシュタグをレコメンドする機能などを有しています。弊社はこれを「Instagram版SEO(search engine optimization)分析ツール」と呼んでいます。

高松:創業直前の話ですが、現副社長の渡辺がめちゃくちゃInstagramにはまっていまして、テクノロジによってフォロワ数を増やしたり、親和性の高いユーザを囲い込んだりできないか、という話になりました。広告代理店の方と議論すると、企業の間でもそういうニーズが高い。そこで、消費者のインサイト(隠れた心理)を可視化することで新たな事業を起こせないか、と考えました。

西川:これとは別に、「ソーシャルプロファイリング」にも力を入れています。これは、ユーザがSNSへ投稿した内容をAIで分析し、企業が市場に投入した商品のトレンドをつかむサービスです。画像解析によって注目する商品と関係する投稿を探し出し、その商品の使われ方や購入の目的、購買層の属性などを分析します。

――技術開発分野は?

西川:企業の技術開発支援を行っています。例えば、画像認識によって自動販売機のアソートメント(陳列情報)を分析した実績があります。また、事故車両の写真から破損部位を検出する技術を、顧客と共同開発しています。

高松:写真から車のパーツを認識し、そのパーツのどの領域が壊れているのかを解析して、破損部位のスコアリングを行います(1)。

1 自動車事故による破損部位分析の例

深層学習で苦労するのは教師データまわり

――技術的に苦労したところは?

高松:AIの学習で問題となるのが教師データのノイズです。特にSNSのコンテンツはノイズが多いので、それをいかにして除去するか。

――画像の問題ですか? テキストの問題ですか?

高松:テキストです。Twitterは特にそうですが、文章が短くて、意味不明な言葉が多い。それをそのまま学習させてしまうと、なかなか精度が上がりません。

深水:最近は画像的なノイズも多くて。Twitter上で「スタバなう」とつぶやいて、ラーメン二郎の写真を上げたり。これは極端な例ですが、投稿した内容と画像の方向性がぜんぜん違う、というのはノイズになります。

――産業システムやFAの分野では、そもそも教師データがない場合もあります。

深水:その場合は、データをどうやって収集するのか、というところから話を始めます。最近は、スマホにAIを載せ、フィルタリングしながらデータを収集したり、安価なマイコンでデータを取ってクラウドに上げたり、といったことが可能です。これらを組み合わせたソリューションを提案することが増えています。

――顧客との間では、どのようなやりとりを?

深水:工業製品の外観検査などで部品の判別を行うとき、人間の目で見ると二つのパーツの形は明らかに違うのに、AIにはその差が分からない、ということがあります。最初のころは、その理由を顧客に納得してもらえなくて苦労しました。現在はAIの技術革新が進み、弊社のノウハウもたまっています。“秘伝のタレ”とも言える、ベースとなる学習済みモデルをいくつか持っており、それに対して転移学習やファインチューニングといった再学習の手法を適用して、認識率を上げています。

コモディティ化するAI、感情やストレスの分析にも挑戦

――AI技術は、今後、どうなっていくのでしょう?

高松:コモディティ化が進みます。4~5年前と比べると、AIは圧倒的に簡単に作れるようになりました。今後はあって当たり前のものになる。「AIやってます」とだけ言っているような開発会社は 淘汰されてしまうかもしれません。

――AIQの新たなチャレンジは?

高松:弊社は、SNSのデータから消費者のインサイト、趣味・嗜好といったものを分析していますが、人間の内面について、分析できる領域をもっと広げられないかと考えています。例えば、カメラやセンサから取得したデータをもとに人間の感情やストレスを分析することで、新たな事業ができないか、といったことです。

――そのためには、別の業界の企業との協業が必要では?

深水:今は、デモシステムを紹介している段階です。2019年10月に幕張メッセで開催された「第3回 AI・業務自動化展【秋】」で、ステレオカメラと赤外線を使って、店舗にいる人の顔を撮影し、それをもとにマイコンでプロファイリング(顔認識、特徴量の抽出)するシステムを参考展示しました(2)。

2 エッジAIマイコンを利用したプロファイリング(顔認識・認証)システムのデモンストレーションデモで使ったボードは、AIアクセレータを内蔵するRISC-Vマイコンを搭載した中国製のもので、2000~3000円くらいで入手可能。

――フォーラムに参加されるエンジニアにメッセージを。

深水:「AIは怖くない」と言いたいです。マイコンなどに組み込めるようになると、AIは単なるパーツの一つになります。例えばローパスフィルタについて、細かい原理を意識しなくても、これを通したらこんな出力が得られるもの、として使っていると思います。AIもそうなります。ただ、組み込んだものの中身がよく分からない不安な気持ちは、よく理解できます。そこのところの取り扱いは、私たちがお手伝いしたいと考えています。

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<プロフィール>

高松 睦氏(AIQ株式会社 代表取締役)

スクウェアエニックス、任天堂のテレビゲーム開発 責任者を経て、スマホアプリをはじめとした新規技術開発に従事する。技術をベースに人を魅了するサービス作りがモットー。コアとなるAI技術の開発とそれらを用いて人々を幸せにするサービス開発に邁進。

西川 龍二氏(同社 マーケティング責任者)

B2C(business to customer)、B2B(business to business)企業にて、主にディジタルマーケティング領域で、マーケティングディレクタとして戦略立案やコミュニケーション設計などを経験。その後、マーケティング責任者としてAIQに参画。マーケティングや、IS(inside sales)、FS(field sales)、CS(customer service)を統括したコミュニケーション部門の立ち上げなどに従事。

深水 拓郎氏(同社 エンジニア部 部長)

大手電機メーカ系のSIer(システムインテグレータ)を経験した後、大手ソフトウェアベンダにて米国でのR&D/技術評価、国内メーカのウェアラブルデバイス向けIoT、モバイルアプリ、およびクラウド構築など、システム開発からプロジェクト管理までを経験。現在は、ダブルキャリアで新しい領域にチャレンジしつつ、海外のMaker Faireに参加するなど、Maker活動も行なっている。