カメラ×映像処理×AIの分野で新会社を立ち上げ ――エッジ端末とクラウドサービスをセットで提供

EDGEMATRIXは、2019年創業の日本のAIベンチャー。GPUベースのエッジAI端末を製品化している。設立時に、NTTドコモ、清水建設、日本郵政キャピタルの3社から9億円の資金を調達。2020年5月末には、AIシステムの開発・運用、およびAIアプリケーション開発会社のビジネスを支援するクラウドサービスの提供を開始した。同社は2020年2月開催のDesign Solution Forumにて、技術講演を行う予定。同社の設立の経緯や製品の概要、エッジAIの動向などについて、同社の太田 洋氏と本橋 信也氏に話を聞いた。

写真1 EDGEMATRIX株式会社 共同創業者兼代表取締役 社長の太田 洋氏(左)、および同社 共同創業者兼代表取締役 副社長の本橋 信也氏(右)

監視カメラから美容院まで、多岐にわたるIVA応用

――EDGEMATRIXを設立した経緯を教えてください。

太田:クラウド型ストレージ製品を開発しているCloudianという会社がありまして、その新規事業として、2016年ころからAIの技術開発に取り組んでいました。AIの世界に入った後、「Edge AI Box(1)」という端末を開発しました。それがとても顧客に評判がよく、事業の成長も見込めたことから、新会社を設立しました。

(a) Edge AI Box - Outdoor(屋外用)


(b) Edge AI Box - Indoor(屋内用)

(c) Edge AI Box - Light(普及機モデル)

1 Edge AI Boxの外観

――どのような用途で使う機器ですか?

太田:弊社が注力しているのは、IVA(intelligent video analytics)と呼ばれる領域で、Edge AI Boxは、AIアプリケーションを実行でき、かつカメラをつなぎやすくした端末です(2)。この端末は、AI処理によってスモールデータ化した情報だけをクラウドへ転送することで、トラフィックの集中や通信コストなどの問題を緩和します。監視カメラのほか、ビルの入退室管理に使う顔認識、人の行動分析、交通量計測、工場の外観検査など、IVAが必要とされる応用は多岐にわたります。

2 Edge AI Boxのシステム構成

――想定外のところから引き合いがあった、というような話はありますか?

本橋:美容院ですね。今回、新型コロナウイルス感染症の問題が発生して、AIのニーズがいろいろなところにあることが分かってきました。病院には、すでに発熱者を検知する装置(サーマルカメラ)が入っています。次は幼稚園とか、保育園とか。本当に、提供の仕方の問題なんです。

AIの開発・運用を支援するクラウドサービスを提供

――開発の段階で苦労したところはありますか?

太田:性能を引き出すのが難しかったです。今、AIを開発している方の多くが、サーバ環境でPoC(proof of concept)を行っていると思います。これをそのまま「組込み」の環境へ持っていっても、期待どおりの性能は出ません。弊社は、ストリーム処理を高速に実行するためのライブラリの開発に力をいれており、これをEdge AI Boxに付けて出荷しています。

――NVIDIAは、パイプライン上でメディア処理を行うGStreamerと呼ぶ枠組みを提供しています。

太田:弊社も、GStreamerベースのツールキットを活用しています。TensorRTという推論アクセラレータのモジュールを利用することで、映像であってもかなり高速に処理できます。ただ、こうした技術に詳しいエンジニアは、多くありません。弊社はIVAへの適用を前提にアーキテクチャを標準化し、処理の最適化を図りました。また、リファレンスアプリケーションを用意して、IVAシステムを構築しやすくしています。

――そのほかに、力を入れたところは?

太田:プライベートネットワークとの境界を越えてデータを受け渡せるようにしないと、リモート監視ができないので、NAT(Network Address Translation)越えの機能を開発しました。あとは、セキュリティです。ハードウェアによるデバイス認証とか、AIモデルの暗号化とか。

――提供しているのは、エッジ端末だけですか?

太田:いいえ。弊社がアピールしたいのは、どちらかと言うとサービス事業のほうです。5月末からNTTドコモと共同で、クラウドベースのプラットフォームサービスの提供を始めました。AIを開発しているパートナ企業からAIアプリを集め、それをEdge AI Boxのユーザに提供します。

――IVAシステムを市場へ展開するためには、他にもいろいろな環境を用意する必要がありそうです。

太田:IoTでは、リモートでどれだけできるのか、という点が重要です。そこで弊社のクラウドからエッジ端末へAIアプリを配信する機能や、エッジ端末の管理・状態監視を行う機能、異常を検知したときにカメラをパン/チルト/ズームしたり、現場映像を確認したりする機能を用意しています。

エッジAIPoCから「組込み」のフェーズへ

――スタートアップというと、若い人たちがワーッとやっている、というイメージがあります。

本橋:創業時のパーティで、「私たちは大人の会社を目指す」と言いました。創業メンバは、みんな50才を越えていたんです。経験があって、それぞれ手を動かせる人たちだったので、人数は少なくてもいろいろなことができました。ただし、今は一生懸命、若い人を採用しようとしています。

――現場のエンジニアの気質は?

太田:ベンチャーマインドの強い人が多いかもしれません。技術のトップは、もともと米国でベンチャを立ち上げたことのある人で、ひとりで何でもできてしまう優秀なエンジニアです。

――Design Solution Forumは、開発エンジニアが主体となって企画・運営している技術フォーラムです。2021年2月開催予定のイベントでは、EDGEMATRIXにもご講演いただく予定ですが、来場者のエンジニアにメッセージを。

 

太田:AIの領域は、これまで高性能なサーバ環境でプロセッサをぶん回しながら、がんがんやってきたと思います。しかし今後は、PoCからすみやかに「組込み」のフェーズへ移行しないと、AIを広く普及させることはできません。

――エッジ側の開発が重要になる、ということですね。

太田:エッジでは、例えばカメラの設定なども含めて、現場で何が要求されているのかを、きちんと理解する必要があります。雲(クラウド)の上でビジネスを行っている人たちが認識していない、さまざまな問題が存在します。その意味では、現場を知る日本の会社が力を発揮できる時代、組込み系のエンジニアが活躍しやすい時代になる、と見ています。

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<プロフィール>

太田 洋 氏(EDGEMATRIX株式会社 共同創業者兼代表取締役 社長)

元クラウディアン株式会社 代表取締役社長兼共同創立者。Edge AI Boxを開発。Jフォン/ボーダフォン・ジャパン在籍時には、世界初の写真付きメールサービス「写メール」や、世界初のロケーションベースドサービスである「J-Skyステーション」および「J-ナビ・サービス」を開発するなど、モバイル業界にいくつもの「業界初」を導入してきた。

本橋 信也 氏(EDGEMATRIX株式会社 共同創業者兼代表取締役 副社長)

元クラウディアン株式会社 取締役兼COO。一橋大学卒業後、国際電信電話株式会社(現KDDI)に入社し、社長秘書4年間を含み経営中枢部門における約20年を経て、ボーダフォン・ジャパンに移籍。経営戦略開発の責任者を務める。ソフトバンク・モバイルによるM&A後は事業開発を担当。南カリフォルニア大学経営学修士。